《第5話》 【音楽教師戦】《第5話》 【音楽教師戦】音楽教師は女の先生で3年間のうちに何回も産休を取っていたようなイメージがある。 ある日音楽室の前でその先生に会った。 俺は優秀でもなくワルでもないので、目立たないはずなのに向こうから声をかけてきた。 「おう、山崎じゃないか、ガハハ」 女なんだけど、なぜか男口調だ。しかも豪快に“ガハハ”と笑う。 「先生、なんで俺の名前知ってるの?」 「何で知ってるかって。そりゃ山崎のことは知ってるさ、ガハハ」 また“ガハハ”だ。 「ところで、先生また 子供ができたの」 「ん?できてないぞ。なんでそんなことを聞くんだ」 「だって、そのおなか」 と先生の突き出た腹を指差した。いつも、ふんぞりかえったように、腹をつきだして歩く先生だった。 「これか、これはただのデブだ」 と今いくよのようにパンと腹をたたいた。 「あっ、そうなんだ」 「なんだ山崎、そんなに気になるのか」 「いや、ただ、また子供を しこんだのかなぁと思って」 「ふーん、しこんでないぞ」 「ふーん、それならそれでいいけど」 「いいのか。山崎がいいと言うんだったら いいだろう。ガハハハ」 ある日の音楽の授業。 先生がたからかに告げた。 「今日は音楽鑑賞です。曲はシューベルトです。よーく聞いていてくださーい」 俺にとって音楽鑑賞の時間、それは寝る時間。 教科書を立てて、先生から見えないようにしようかなと思ったら、音楽の教科書はうすっぺらで立たない。 しかたがなく教科書を頭にかぶせて寝た。 気持ちよくて 本当にすやすやと寝た。 曲が終わると、先生が手をたたいて、まるで寝てる子を起こすようだった。 「はーい。曲がおわりました。この曲を聴いた感想を聞かしてくれ」 クラシックの感想なんて、中学生にはむずかしいんじゃないのと思ってたら、先生はおもいっきり俺を指差した。 「山崎、ぜひ感想を聞かしてくれ」 やばい。寝てたのがばれてるな。ここは開き直るしかないな。 「はい、よく眠れました」 怒られるかなと思ったら、先生はニヤッと笑った。 「そうか、よく眠れたか。それは よかった、よかった」 えっいいの。まわりの生徒もざわめいている。俺はかえって不安になって聞いてみた。 「先生、本当にそれでよかったの?」 先生は悠然と腹をつきだして言った。 「それでいいんだぞ。だって、この曲の題名は“シューベルトの子守唄”だ。子守唄を聴いてよく眠れたということは、この曲をいちばん理解しているということだ。・・・どうだ、山崎、まいったか」 「・・・まいった」 「そうか、山崎がまいったか。それは よかった、よかった、ガハハハ」 また“ガハハ”だ。
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